まどれーぬの音楽帳

クラシック音楽(主にピアノ曲)が好きな主婦です。好きな曲、好きなピアニスト、再開したピアノレッスンのこと、コンサートの感想などを気ままに綴ります。

12/11 ヤン・リシエツキ ピアノリサイタル@紀尾井ホール

ヤン・リシエツキ(Jan Lisiecki)は1995年、カナダ生まれの22歳のピアニスト。(両親はポーランド人)

9歳より出身地、カルガリーのオーケストラと共演、その後瞬く間に世界的な活躍に至り、ドイツ・グラモフォンから既に4枚のアルバムを出しています。どの録音でも、彼一流の美音と瑞々しい感性を堪能できますが、その内の3枚はモーツァルト、シューマン、ショパンのピアノ協奏曲などで、ソロ・ピアノ曲の録音は意外にもショパン/エチュード集の1枚だけ。

彼は日々、膨大な数のコンサートに出演しており、ネットラジオでも度々ライブ演奏を耳にしてきましたが、やはり協奏曲を聴くことが多かった。

今日のリサイタルの曲目は「夜曲」をテーマにしたセンスの光るもの、かつ、リシエツキの演奏では初めて聴くものばかり、ということもあり、心待ちにしていたのです。

 

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<プログラム>

ショパン:夜想曲第15番ヘ短調Op.55-1

     夜想曲第16番変ホ長調Op.55-2,

シューマン:4つの夜曲Op.23

ラヴェル:夜のガスパール

(休憩)

ラフマニノフ:幻想的小品集Op.3

ショパン:夜想曲第19番ホ短調Op.72-1

     スケルツォ第1番ロ短調Op.20

 

<アンコール>

ショパン:夜想曲第13番ハ短調Op.48-1

シューマン:トロイメライ

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さて、実演を聴いてどうだったかと申し上げますと…2時間に渡る演奏の中で心の琴線に触れる場面が幾度となく訪れ、間違いなく一生の思い出の一つになる名演でした。

 

まず、冒頭のショパンの夜想曲、15番、16番。録音以上に柔らかい美音で、歌い込む部分とサラッと流す部分のバランスがよく、聴いていて心地よい。中間部の激情の表現も抑制されていて、内省的なアプローチが光っていると思いました。(この辺りは、エチュードの録音op10-3などでも感じましたが)

 

続くシューマンの4つの夜曲は、シューマンの詩的な感性とリシエツキの真正面からの曲への取り組みが奇跡のマッチングを起こし、夢の世界が舞台に出現!シューマンの複雑な和音進行が躍動感あるタッチと繊細な音色で紡がれていくうちに、夜の闇に妖精や動物たちが跳ね回ってくる情景が浮かび上がってきました。(※適当な解釈です) 

(見目麗しい)リシエツキがシューマンの気まぐれな音の世界で遊んでいる姿は、至福以外の何物でもなかったです^^;

 

夜のガスパールは技巧部分もさることながら、詩的な情景をどう描写するのか興味深かったですが、こちらはこれまでに比べてややヴィヴィッドな演奏。オンディーヌの煌びやかさからスカルボの大爆発まで、技術的な難を全く感じさせず、かつ表現の振り幅が広いことにただただ驚嘆。

 

ここまで(前半)聴いて、リシエツキは音色を神経質にコントロールするタイプではない、と気付き少々意外でした。音は単色の濃淡のみで、とてもシンプル。(ペダルが左と右を最小限に使うのみだったのを見て納得。)

 

後半のラフマニノフは、そういう意味ではやや濃さが足りないというか、もっと適した音色があるのではないかいう気もしました。もちろん、その辺りの物足りなさは、音楽の推進力できっちりとカバーされており、私的には何の不満もなく、むしろこれぐらいのストレートなアプローチがちょうど良かったのですが。(あまりおどろおどろしい演奏は苦手なのです^^;)この辺りは、やはり奏者の個性と作曲家の相性があるのでしょうね。彼は完全に「陽」のタイプなので、あまり「影」(闇)の濃い作曲家は似合わないように思います。(リストとか弾いてる姿が想像つきません 笑)

 

最後のシークエンスはショパンに回帰。夜想曲19番の澄んだ音色を聴いて、ホームに戻ってきた感に安堵。スケルツォ1番では静と動の自然な表現に、彼はやはり音楽を流す、留めることの技術に長けていることを再確認しました。

全体を通して、曲に憑依する、というより、曲を浄化して取り込むタイプのピアニストだと感じたのですが、22歳でここまでスタイルが確立されていると行く末が恐ろしいですね…これからどんなレパートリーを開拓されるのか楽しみです。(個人的にはバッハを弾いてほしい^^)

 

アンコールのシューマンの「トロイメライ」は極限までスローなテンポにキラキラと輝く弱音が美しく、夢の世界を極限までに煮詰めたような…この世の善なるものの結晶のような輝きでした。身に余るプレゼントを不意に受け取ってしまったような衝撃で、涙が出そうになりましたよ。彼はきっと音楽の神が遣わした天使なのですよ…という身も蓋もない結論に(笑)

 

今回の来日で、彼は名古屋でモーツァルトのピアノコンチェルト20番を演奏したようで、そちらも本当は聴きたかったのですが、遠征は叶わず。(名古屋フィルとの共演)リサイタルは東京だけでしたし、次の機会にはもっと各地を回って一人でも多くの方に彼の素晴らしい演奏を聴いて欲しい、と願わずにはいられません。

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