まどれーぬの音楽帳

クラシック音楽(主にピアノ曲)が好きな主婦です。好きな曲、好きなピアニスト、再開したピアノレッスンのこと、コンサートの感想などを気ままに綴ります。

2/20 リュカ・ドゥバルグ ピアノリサイタル @トッパンホール

 仏人ピアニスト、リュカ・ドゥバルグ(Lucas Debargue)のピアノリサイタルを聴いてきました。

ドゥバルグ(以下、リュカ君、と呼ばせてください^^;)の実演を聴くのは今回が初めて。

動画などを見る限り、鍵盤の上に覆いかぶさり、表情豊か、かつエキセントリックな演奏をする人、というイメージですが、CDの録音はそれよりもやや端正な演奏。私の中ではつかみどころがなかったのですが、去年のリサイタルの評判がよかったのと何よりもプログラムに惹かれたので生音を拝聴しに行くことに。

 

✩プログラム✩

(当初の予定から、演奏曲順が前半と後半でまるまる入れ替わってます)

ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53《英雄》
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調 Op.31
ショパン:夜想曲第13番 ハ短調 Op.48-1
ショパン:スケルツォ第1番 ロ短調 Op.20

(休憩)
J.S.バッハ:トッカータ ハ短調 BWV911
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111

 

今日の 目当ては、ショパン「舟歌」と「夜想曲13番」、そして何より、大好きなバッハのトッカータハ短調、ベートーヴェンのピアノソナタ32番、です。

 

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ショパン

舞台袖からゆったりとした足取りで歩いてきてリラックスした姿勢でお辞儀、ピアノの前に座り、椅子を何回かずらしたり、メガネのふちに手をやったり、一通りの儀式をするリュカ君。ほー、脇目もふらず歩いてきて、すぐに弾きだすイメージだったから、ちょっと意外?なんて思いながら、演奏がスタート。(この一連の流れ、私的にはピアニストの性格が伺える気がして、つい注目してしまうのです)

最初に断っておくと、私はショパンにそんなに詳しくなく、ごく限られた演奏しか聴いたことがないので、以下に記すことはあくまで私の感じたことです…

 

のっけからの「英雄ポロネーズ」はリュカ君のテンションが曲にやや遅れをとっているようなのが気になってしまった。(疲れていたのかもしれない)英雄の華々しさ、雄雄しさ、みたいなものがない。徐々にエネルギーが沸いてきたけれど、中間部の左手のオクターブの連打のあたりなどはやや苦しい感じ。あの部分はそれほど豪速で弾く必要はないとは思うけれど、リュカ君ぐらいのテンポなら、粒立ちをそろえて綺麗に弾いて はっと言わせてほしかった。なんとなく、不完全燃焼のまま終了。

「舟歌」を弾きだして、フレージングがユニークなことに気づく。タメを作ってほしいところでさっと流し、逆にさらっと進めてほしい部分をタメる。ところどころ、内声を不思議なところで強調したり、同じフレーズを繰り返す部分では弾き方を変えたりもする。面白い試みだけど、ここは一息で緊張感を持続させてほしいなぁ、という部分では聴いているこちらの集中力が削がれてしまった。(ただし、ショパンは同じフレーズを弾くときは、同じようには弾かなかったといので、これは正しいのかもしれない)

ショパンの曲の特徴、長いひとつのフレーズ、の後に、またもうひとつ長いフレーズ、またひとつ…と数珠つなぎのように続いていき、それがときには何十小節にも渡る。その間ひたひたと高めたテンションが、クライマックスで爆発する。舟歌もそういう曲だ。リュカくんの演奏は、目的地が不明で、いきなりクライマックスに行きついてしまった感があった。

「夜想曲13番」でも全く同じ感想。

 

幸いにも、スケルツォではこうした違和感はあまり感じなかったので、曲の特性にもよるのかもしれない。スケルツォ1番の中間部(ポーランドのクリスマスの旋律の部分)の瞑想的な表現などはとても美しかった。ただ、冒頭の主題やクライマックスのフォルテで弾く部分、ピアノのガーンという強い響きがやや耳についてしまった。私の座った位置が悪かったのか(右側前方で)、遠くから聴けば気にならないのかもしれない。鍵盤を乱暴に叩く人、というイメージはなかったので、これも少々意外。

 

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バッハとベートーヴェン

 バッハのトッカータハ短調(BWV911)、これは大好きな曲で、リュカ君の録音の他にも何人かのピアニストのお気に入りの演奏もある。基本的にはどんな演奏をされても頬が緩んでしまうので、この曲はとても楽しく聴けた。同じフレーズの弾き方を変えるのも、バッハなら全然気にならない。フーガの後半にかけての盛り上がり方がやや性急なように感じたのと、もう少し音色の変化があればもっと好みの演奏だったかも。

 

ベートーヴェンのピアノソナタ32番、これはとても良かった。私はベートーヴェンはわりと端正な演奏(ブレンデル、ポール・ルイス)が好きなのだけど、32番は緩急自在で激情ほとばしるリュカ君の表現が曲調にはまっていたと思う。

というのも、ベートーヴェンの曲は美しく歌っていたと思ってたら、短気を起こしてちゃぶ台引っくり返す、みたいなのが持ち味だと思うので(なんのこっちゃ?)、この曲の1楽章はまさにそんな場面ばかりで、崩した表現が気にならない、というのもあった。

そして、天上の響きの第2楽章。冒頭の静かな和音の始まりはとても美しく弾いてくれた。そこから途中の変奏曲のノリノリに変化する感じは彼の真骨頂という感じでとても面白く、これはバガテルなんかを聴いてみたい、と思ってしまった。最後は静かに、潮がひいていくようにトーンダウン。2楽章は私的にはとても長く感じるのだけど、今日は短くも、密度の濃い旅をしたような気分に。

弾き終わったリュカ君が鍵盤から手を離して、膝の上に置く、一息つくのを固唾を飲んで見守る聴衆、そして立ち上がるを待ってようやく拍手!というパーフェクトな終結でした。

 

今回の演奏会の感想…前半と後半で受けた印象がちぐはぐなので、ちょっとまとめるのが難しいのですが、私にとっては彼の演奏は曲を選ぶのかなと思いました。(ショパンはちょっと個性が強すぎる ^^;)ベートーヴェンの実演を聴いた限りではシューベルトとかラヴェルがしっくりきそう。あとはバロック全般。そんなプログラムなら、ぜひまた実演を聴いてみたいです。

 

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おまけ

アンコールはなしでしたが(ああ、アンコール無しか、と一瞬思いましたが、あの32番の後に何かを弾いてほしい、なんて言うのは無粋なんですよね^^;) サイン会はありました。

バッハとベートーヴェンがとても素晴らしかった、と告げると、嬉しそうにしてくれました。目が合ったけれど、瞳が青とも翠ともつかないとっても綺麗な色で、ちょっとドキドキしてしまうという…ちなみに、リュカ君は顔が小さくて背が高くて、とても足が長く、スタイルが大変によろしいです。(私の席からはよく見えなかったけれど、足が長すぎてピアノの下に収まりきらない感じ、だとか)ちょっと影があるというか、カリスマがある感じなのは動画やCDジャケットで見るイメージそのままでした。

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サイン会終了後に慌てて撮った写真。お疲れのところ、ありがとうございました…

 

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