11/29 ポール・ルイス ピアノリサイタル@王子ホール
イギリス人ピアニスト、ポール・ルイスのことを知ったのは恐らく数年前?
ベートーヴェンのピアノソナタ全集の録音を聴き、派手さのない実直なピアノに魅せられました。実直、といっても四角四面でつまらない、というわけではなく…やや硬質ながらもニュアンス豊かなピアノの音色と、余計なことをしないすっきりとした解釈が耳に心地よく、モダンなベートーヴェン、という印象を強く持ちました。
今回のプログラムは彼が取り組み中のHBB Projectという名のもと、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスの曲で構成。
一般的にはややお地味?なプログラムですが、ベートーヴェン以外の曲目も私的には好みど真ん中だったので、この日を心待ちにしておりました^^
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プログラム
ハイドン:ピアノソナタ 第50番 ハ長調 Op.79
ベートーヴェン:6つのバガテル Op.126
(休憩)
ブラームス:6つの小品 Op.118
ハイドン:ピアノソナタ 第40番 ト長調 Op.37-1
✩アンコール✩
シューベルト:アレグレット ハ短調 D.915
リスト:ピアノ小品 嬰ヘ短調
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さて、実演を聴いてみてどうだったかと申しますと、期待以上に素晴らしかったです。
1曲目のハイドンを弾きだしてすぐ、(録音では気付かなかった)音色のパレットの豊富さに耳を惹きつけられました。
といっても、虹色とか極彩色、というのではなく、暖色系に統一されているイメージ。色でいうと、茶色、黄土色、えんじいろ、橙色、山吹色、とか…とにかく温かみのある色。
低音の鐘のような響き、高音のオルゴールのような響きに、ふと昔の円盤式の木製オルゴールを思い出しました。(当たり前ですが、ピアノも木でできてるんだよなーと。)
音の紡ぎ方はとにかく丁寧。不必要(だと私が感じる)なテンポの乱れが全くないので、安心して音楽に身を委ねることができました。
ハイドン、ベートーヴェンの曲中の(ユーモラスな)休符が活きるのも、あの安定感があってこそだよな、と感心しきり。
そして、何より素晴らしかったのは自然な歌心。
楽譜に書かれている曲を弾いているのではなく、どの曲も自分の内側から湧き出る歌をピアノの音に載せているように聴こえました。
それだけ、作品が手の内に入ってる、ということなのでしょうが…
ブラームス の6つの小品は、1曲目の颯爽とした表現、Op.118-2の過剰なロマンチックさを排除した引き締まった表現、が特に良かったかなと。
そして、終曲のハイドンのト長調ソナタのなんとチャーミングなこと^^
最後のフレーズを弾き終わった瞬間、くすくす笑いと喝采の嵐。
(ほんとうに、冗談、としか言い様がないピースなんですが、あれをプログラムの最後に持って来られたのには意図があったことが後に判明。)
客席からの温かい拍手に応えて、アンコールは2曲。
シューベルトとリストの小品、どちらも本編の番外編のような、温もりのあるタッチの演奏でした。
終演後のサイン会で、コンサートにご一緒した方がルイス氏に「なぜこのハイドンのソナタを最後の曲目に選ばれたんですか?」と質問してくれたんですが、それに対するお答えが「みんなを笑わせたかったから。真面目な曲ばかりじゃつまらないでしょ?」と!
演奏の実直さと、外見含め、ご本人の佇まいから醸し出される実直な印象も相まって、「なんと生真面目な方!」と感心・感激したのでした。
今の時代、こういう「生真面目さ」って逆に貴重だと思うので、彼のようなピアニストが活躍してくれるのは有難いことです。
来年の11月にもHBB Projectで来日公演が予定されているそうなので、次回も聴きに行きたい、と強く思ったのでした。