まどれーぬの音楽帳

クラシック音楽(主にピアノ曲)が好きな主婦です。好きな曲、好きなピアニスト、再開したピアノレッスンのこと、コンサートの感想などを気ままに綴ります。

コンクール受けしない演奏?

数日前、ある若手ピアニストの卵、のミニリサイタルに行ってきました。

奏者の方は全く無名の若者(男性)、会場は区営のとあるホールで昼間の時間、小一時間のもの。

夜に行く通常のコンサートなら、奏者も曲目も吟味しますが、昼間の時間帯のコンサートというのはそれだけで主婦の身にはありがたい。(しかも入場料無料^^)

チラシに載っていた曲目はなかなか魅力的だし、経歴も目を惹くものがあり(日本最高峰の某国立音楽大学を卒業後、ドイツの音楽院に留学中)、プロフィール写真も感じが良く、それなりの演奏が聴けるのでは?、との思いで出かけていきました。

 

プログラムはドビュッシー/ベルガマスク組曲より前奏曲と月の光、喜びの島、リスト/ロ短調ソナタ。会場に行ったら、さらにベートーヴェンの6つのバガテル作品126から抜粋の3曲が追加されていました。その時点で、あ、これは当たりかもしれない、との予感が。ベートーヴェンの中でも有名なソナタではなく、バガテルを選ぶあたり…私的には好きなセンスです。

 

無名の方だしガラガラかしら、と思いきや、広い会場は半分ほど埋まっておりびっくり。ただ、無料催しものの恒というか、観客は(コンサート慣れしてない感じの)高齢者の方が多数。開演直前まで、ガサガサ、ワサワサとしており、一瞬心配になりましたが、演奏が始まると杞憂だったことが判明。

 

バガテルの最初の1音を聴いて、これは好きなタイプの音色だ!と嬉しくなりました。

柔らかく、しっとりしていて押しの強くない音。ベルヴェットのように滑らかで、でも芯がしっかりあり、ベートーヴェンに合っています。プロの演奏でもっとスカスカだったり、美しくない音色を耳にしたことがあるので、この音色が聴けるだけでも幸せです。

音の運び方も丁寧で、 誠実に弾こう、という強い意志が感じられます。 煩い音を立てていた客席のご老人方も、演奏が進むにつれて居住まいを正し、会場に静寂が…

続くドビュッシーにしてもリストにしても、技巧的には全く問題なく、かつ端正な弾き方で、とても好感が持てました。

特に、ロ短調ソナタは主題のグロテスクな部分はサラッと流しつつ、副主題?の甘美な旋律の歌い方が絶妙で、あまりリストを好んで聴かない私でも聴き惚れてしまいました。

アンコールに、6つのバガテルの中から、5番の愛らしい曲を「バガテルの中では一番好きな曲です」と、説明された上、爽やかに弾いて下さったのもとても良かった。

 

ただ、喜びの島はもう少し煌びやかでもよかったのかもしれないし、どの曲も丁寧に弾いてるのは素晴らしかったのですが、ところどころピアノが鳴り切れてないというか、やや迫力が不足している、と感じる部分がありました…(偉そうで申し訳ない)

それにしたってガシガシとデリカシーなく弾かれるピアノに比べたら何千倍も魅力的ですし、シューベルトブラームスなんかが似合いそうな音で、彼はきっとこれから良いピアニストになるに違いない!と嬉しくなりました。

 

終演後、奏者の方とお話ができる時間があり、とてもとても素晴らしい演奏だったのをお伝えして、何とは無しに「コンクールに出られる予定などはありますか?」と訪ねてみました。

すると、意外な反応が…「僕、コンクール、落ち続けてるんですよー」と苦笑い。数ヶ月後に、留学先から本帰国されるとのことで、「その後の予定は未定です 笑」と、爽やかに切り替えされました。(申し訳ないことを聞いてしまいました…)

…あんなに素晴らしい演奏をしても、コンクールに出れない…(予選にも進めないのか?までは不明でしたが)それが私にはショックでした。

確かに、やや迫力不足な部分もありましたが、それを補って余りうる美点があり、ああいう抑えた演奏が持ち味のプロも沢山いるじゃないの…と。ひどいわー…と、ひとり胸を熱くしてしまいました。

(まあ、私の好みは普段からコンクール受けしないような演奏に偏っているから、余計にそう思うのかもしれませんが^^;)

絢爛豪華、ダイナミックな演奏よりも、繊細な中にも個性の光る演奏を愛する者としては、コンクールってやっぱり…と思わずにはいられません。Twitter上でも、コンクールって必要悪なの?なんて話題がたまに出たりしますが、コネクションのない若者が世にでる手段は他にないのが現実なのかしら、と、切なくなりました。

他にも何人ものお客さまが、彼に賞賛の声をかけており、「音楽を聴いていつもはそういうことはないのだけど、今日のアナタの演奏には情景が見えた!」と仰っている方までおり、人の心を揺り動かす演奏であったことは間違いありません。

 

得意な作曲家を尋ねたら、ブラームス、を挙げて下さった(やっぱり!!)才能あふれる若者の前途がどうか拓けますように、と願うばかりです。

(あー、私に お金とコネクションがあればパ◯ロンに…と思ったのは内緒です…よ^^;)

 

 

チケットぴあ